Africa想い出部屋

ソーダを買ってあげたいの!

ソーダというのは炭酸飲料の総称で、チャイは紅茶のことですが、どちらにもワイロという意味合いがあります。
贈収賄で新聞をにぎわす大きな金額の物ではなく、ちょこっと強請られるささやかなワイロは至る所に… (・_・、)

要求する方は「喉が渇いた」とか、「冷たい物が欲しいなぁ」とか、「今朝はチャイも飲まずに家を出た」とか言ってきます。

85年、アフリカ某国の空港

隣国への移動のためのチェックインも終わり、搭乗前のセキュリティー・チェックを受けようとしていた私は、盗られては困るということで、大金(数千ドル)をジーンズのお腹のところに入れていました。

ボディ・チェックの女性担当官が「これは?」と私のお腹に触って聞いてきました。
「お金です!」 悪いことをしているわけではないのと、周りの人にも聞かせた方が良いと判断したこともあり大きな声で答え続けました。
「我が国ではこういう風に外貨を隠し持ってはいけないのよ」
「隠したのではなく、盗られたら困るから、ここに入れたんです。去年、お金を盗まれてひどい目にあったので、今度は盗られないようにと思って」
嘘ばっかり (^o^)ハハハ

「でも、ダメな物はダメよ。ちゃんと申告しているの?」
「申告はしています」そういう会話の間に、私は、人前ではあったけれどジーンズのファスナーを少し下げて、お金を取り出してバッグに移しました。
「ちょっとこっちに来て」

この担当官の言葉に私は頭脳回路をフル回転させました;

機内持ち込み用の大きなバッグはこの場に残しておこう。カメラなどの貴重品が入ってはいるものの、人目もあるし誰も盗れないだろう。連れて行かれる先にはさっきのお金を移した、そしてお財布も入っているハンドバッグだけを持って行こう。

その場を離れるとき、幾人かいた男性の検査官に声をかけました。
「向こうに行ってきますが、ここにバッグを置かせてください。大事なものも入っているのでよろしくお願いします」
むろん周りにも聞こえるような大声で言いました。

歩き始めると彼女は私に dada と呼びかけてきました。
お姉さんという意味なのですが、知らない同士での呼びかけにも使うこの言葉を聞いて、安心したというかこの先彼女が言うであろう言葉の想像がついてきました。

「dada、どこでスワヒリ語を習ったの?」
「日本で、ケニャ人から習ったの」
「すごく上手ね。私も日本へ行って日本語を習いたいわ」
そんな話をしながら彼女は私を小部屋に連れて行きました。車いすで入れる電話ボックスを二つ繋いだほどの、細長い部屋でした。
先に彼女が入ったので、私はついて入り「暑いからドアを開けてても良いでしょう?」 といい、扉にもたれて立ちました。

この「暑い」という言葉に彼女は早速反応してきました。

「本当に今日は暑いわね。喉が渇いて仕方がないわ」
「私もよ。早く機内に入って飲み物をもらいたいわ」 軽くいなしてみる。
「さっきのお金、見せて」
差し出すと
「たくさんね」
「そうなんですよ。だからなくすと大変なんですよ」
パラパラとめくりながら、「本当に申告はしているの? 調べればわかるのよ」
調べに行くわけはないでしょうよと思いながら
「間違いなく申告しています。すぐに調べてきてください」
「別に疑っているんじゃないのよ。でも、仕事だからね」
なおもお金をいじっていた彼女は突如
「ねぇ、1枚頂戴よ。ソーダが飲みたいわ」といってきました。

1枚って、1枚には違いないけれど、そのお金は全部百ドル札でした。
当時だと、記憶は定かではないですが2万円近かったんじゃないでしょうか。
お腹の中では「誰がやるものか!」と思いながらも顔はにっこりと笑いながら
「ダメよ。全部向こうで必要なお金なんだもの」
「でも、喉が渇いているのよ。わかるでしょう、ここは暑いし」
「私だって朝からなんにも飲んでいないのよ。ホテルは断水していたし」
友達の家で朝からたっぷりのシャワーを浴びてきましたがそんなことは内緒。

喉が渇いた、ソーダが欲しいという彼女の言葉にのらりくらりと返事を続けました。
「わかったわ。私も喉が渇いているし、ソーダを買ってあげても良いけれど、でも、このお金はダメよ。これは大金すぎるわ」
「じゃぁ、小さいのを頂戴よ。10ドルとか20ドルとか」

このあたりで、もう私のペースになっていると確信しました。

「でも、私、向こうに置いてきたバッグにお財布を入れているの。向こうに戻らないとあげられないわ」
「じゃぁむこうへ戻りましょう。あなたは良い人ね、思った通りだわ」
「ありがとう。わかってもらえてうれしいわ」

検査場に戻ると男性の検査官が彼女に「どうだった?」と聞いてきました。
「大丈夫。問題なかったわ。通してあげて」と答えて、ご親切にも私が残していったバッグを私の方に送ってくれました。
「ここに入っているんでしょ」と言いながら。


で、そこで私はやりましたよ!

Pesa zangu ndogo nimeweka wapi?
Pochi yangu nimeweka wapi, jamaani?
Huyu dada anasikia kiu.
Amesema anataka nimnunulie soda.
Nataka kumnunulia soda.
Sijui nifanyeje.
Pesa zangu za kumnunulia soda ziko wapi?
私、小銭をどこに入れちゃったの。
お財布、どこに入れちゃったんだろう。
この人、喉が渇いたんだって。
私にソーダを買って欲しいって。
買ってあげたいのに。
どうしよう。
ソーダを買ってあげるお金はどこ?

これを大声で言いながら、大げさにバッグを引っかき回しました。
周りの人はくすくす笑いはじめました。しめしめ。 (^_-)-☆
 
「もう行っていいですよ」
男性の検査官がそう言ったのはそれからまもなくでした。
「この人にソーダを買ってあげなくても良いの?」
私はそう言ってやりました。
彼は笑いながら
「次の時で良いですよ」


時効になれば φ(..)

空港その他での小役人との丁々発止(?)のやりとりは、軽く一冊の本が書けるほど。
でも、時効が何年かわからないから安心して書けません。(^o^)ハハハ

お役人さんにも、あるいは私企業の職員にも、良い人もいれば悪い人もいる。
それはどこの国も同じです。
ただ、国内で大きな顔でワイロを要求されることがないだけに…

また暇を見て小出しに書いていきますね。