Africa想い出部屋

二度目の災難!

旅行中、土地の人とのもめ事は写真が原因というのが多いです。
どんなにきつく禁止してあっても、毎回のように誰かが無断撮影して、
相手を怒らせたり、警察沙汰になったり。

そういえば・・・
ガイドから「このマークの付いた建物は撮らないでください」といわれたその場(!)で、ご丁寧にもそのマークを撮ろうと、重ねてご丁寧にも三脚を据えたバカもいました。

ダレサラームのナマンガ

ミコチェニとオイスター・ベイの境の辺りに、「ナマンガ」と呼ばれるショッピング・エリアがあります。
ナマンガというのは、マサイ・ランド、タンザニア・ケニャの国境地域にある町の名前で、両国に同じ名の町があります。
ダレサラームのこの辺りに、アラブ系の人がぽつりぽつりとお店を始めたと思ったら、地の利が幸いしたのか、ワーッとお店の数が増え、ショッピング・エリアになってしまいました。

その賑わいから、誰いうとなく国境の町ナマンガの名が、この辺りの通称になりました。


95年、8月某日、ダレサラーム、快晴

ダルでの私の兄代わり、親代わりといえるトムの運転で、私たち一行はそのナマンガを通りがかり、お水を買おうということになった。ピックアップの後部座席に4人もの同行の女性を詰め込んでいた。日本人のおばさん二人と若い女性一人、そしてオーストラリア人の女性一人である。
私たち5人を車に残し、トムがお店の方に行った。私は、頼み忘れたものを思い出して、友人たちを車に残しトムの後を追った。
お店の前で、トムの品選びを待ちながら、私もビスケットやチョコレートを買おうとしていたとき、何とはなしに気配というか、何かを感じ私は振り向いた。
私たちの車のそばで、イスラム帽をかぶった男が、身振り手振りで喚いている。私は慌てて車に戻った。
「どうしたの?」 そばまで行くと、男の顔は怒りでいっぱいだと判った。
「写真撮ったって怒ってるみたい・・・。」 香姫が答えた。
「誰が撮ったの!」 私の顔は、多分この男の顔より怖かったかも知れない。
「私が、Sさんに頼まれて、撮ったの。でも、お店だけよ。」 と桃ちゃんがいう。
マクシンは、怒りに満ちた目を明後日の方向に向けている。
「どこを、どうやって撮ったの?」
「ここから、あの果物屋さんを撮って貰ったの。珍しかったから。でも、男の人は入ってないと思うのに、怒ってはるねん。」 と、とうのSさんが答える。
「だから、むやみに写真は撮るなって言ってあったでしょう!」
「そやけど、写ってないと思うよ。」
「写ってる写ってないより、カメラがどっち向いてたかがこの人の問題なのよ!」

私は興奮する男に、丁寧に話しかけた。
「申し訳ありません。同行者が、日本にない果物がならんでいるお店が珍しくて、写真を撮ったようなのです。お店だけを撮ったといっているのですが・・・。」
「そんなはずはない。私は店の真ん前にいたのだから!」
いけなかったのはここにトムが戻ってきたこと。
「どうしたんだ?」
「お店の写真を撮ったらしいんだけれど、そこにこの方がいたから、自分が写っているはずだって、怒ってらっしゃるの。」
この説明を聞いたトムがブチ切れた。
「観光客が私たちの国に来て、記念に写真を撮ってるだけのことに何を怒ってるんだ? どんな迷惑があるんだ?」
これではイスラム男の怒りをたきつけるだけ。
私が丁寧に謝って話を済ませようとしているのに、謝る私を押しとどめて彼の非礼をせめるトムの声も大きいし、イスラム帽の男の声も大きい。当然周りには人垣ができ、賛否両論になる。
写真ぐらいという人。勝手に撮るなんて無礼だという人。謝っているから許してやれ。警察へ連れて行け。カメラを取り上げろ。この男(イスラム帽)は狂っているという人まで現れて、大騒ぎ。

結局近くのオイスター・ベイ・ポリスへ行って話を付けようということになり、私たちはトムの車で、男とその仲間・支持者は彼等の車で、警察署に向かった。


オイスター・ベイ・ポリスにて

私たち全員を車に残して、トムだけが署内に入った。
車の中で私は言った。
「写真を撮った者が呼ばれても、桃ちゃんではなく、Sさんが行ってね。頼んだのはあなただから。そして、人は写ってないということだけ言って。ただし、片言の英語を使うのは止めて、日本語だけにして。誰にも判らないから、きっと私かマクシンを通訳に呼びに来るから、日本語以外は話さないで。そのカメラ、最悪の場合、提出するから、戻ってこないと思って。できるだけフィルムだけで済ませるようにするけれど、私があれほど注意してあったのに、あなたが犯したミスだから、そのことであなた以外の誰も迷惑を被りたくないの。良いわね?」
程なくして、写した者は中に来いと呼ばれ、Sさんは中に入った。

みんなでSさんの愚行を嘆いていると、トムが怒りながらでてきて、私に中に入れという。

「まず、写真を撮った目的は、珍しい果物屋さんを撮りたかっただけで、この方を撮る気などなかったというか、この方がいることさえ気づいていなかったのです。」
「しかし、私はそこにいたんだ!」
「そのことに関しては、本当にあなたが写ってしまっていたら、申し訳ないことだと思います。でも、悪意がないことだけは判ってください。」
「悪意の有る無しではなく、写したかどうかが問題だ。我々イスラム教徒がそのことを喜ばないのを知らないのか?」 横から別な男が割り込んで言う。
「それは重々理解しているから、彼女たちにも注意してありました。だからこそ3週間ほど、問題もなく旅を続けて来れたのです。今日たまたま、店先に人がいるのに気がつかずに撮ってしまった、単純なミスです。申し訳なく思っています。」
ともかく謝るしかない。
「あなたが不愉快に思っている以上、あなたが写っているいないに関わらず、このフィルムはあなたにお渡ししようかと思うのですが、それで彼女に悪意がなかったことを認め、許してやっていただけますか?」
「そんな風に謝ってくれればいいのだが、あの男がまるで私が間違っているように言うから、腹が立ったんだ。」
「彼は、私の兄で、彼女たちは私が連れてきた彼のゲストです。だから、私たちを心配するあまり言ったことで、彼にもまた悪意はありません。」

私はSさんにフィルムを抜くように言った。ただし、巻き込んでしまわないよう、端だけは残る程度で巻きをストップするように言った。そんなやり方判らないという彼女を口汚くののしりながら、適当なところでスイッチを切らせた。
「これが、あなたが写っているかも知れないフィルムです。ただ、私たちの写真も写っています。私たちもまた、知らない人たちに写真を見られることを好みません。どうでしょう、このフィルムを、誰にも写真が見れない状態にしてしまうのは? あなた方も、私たちの写真が欲しいわけではないから、それで問題はないでしょう?」
「どうやってするのだ?」
「これを、この端を引っ張って、光に当ててしまえば大丈夫なんです。」
「そしてあなた達がもって帰るのか?」
「いいえ、フィルムそのものはあなたに差し上げます。そのほうがあなたも安心だし、私たちも安心です。」
判ったという男に、端を引っ張ってパトローネからフィルムを引き出させた。

私は右手を差し出して
「私たちはお互いに悪意も何もなかったのです。これですべてが終わりました。そうですね? 私たちはもうこの警察に来ることもないし、あなた達も来ることはない。今度町であったら、お互いに挨拶を交わしましょう! それではさようなら。」

警察官たちにも、「ありがとうございました。さようなら。」とだけ言って、さっさと私はSさんを追い立てて署をでた。


正直言って、あなたが・・・

「なんであんなバカな男に謝るのだ。」 トムは苦り切った顔で私にそういったが、あの場合謝る以外にどんな手が有ったというの?

正直言って、あなたが戻ってこなかったら、あの場で、ナマンガで、私は話を付けていたよ、トム!