Africa想い出部屋

開いていたなら閉めてくれ!

ナイロビの下町の、日本でいえばビジネス・ホテルというクラスのホテルに長逗留していたときのことです。
なんの用もないナイロビで、連れ合いと二人ラブラブ、もとい、ブラブラしておりましたので、毎日する事といえば、本を読んでいるか、カードをしているか、まぁそんなところでした。

その日も、そんな一日でした。

95年秋

朝からビールを飲みたかった連れ合いは、部屋のテーブルよりもバーのテラスのテーブルの方が絵はがきが書き良いよと、上手く私を連れ出すことに成功したのです。2・3枚書いたところで飽きが来て、今度は二人でカードを始めました。今日の昼食は好物のインド料理屋さんへ連れていってもらう約束が取り付けてあったものですから、私としてはいたってご機嫌、つき合っておりました。2本目のビールを飲み終えたころ、ウェイターが追加を聞きに来ました。思えばこのときの連れ合いのせりふが、悪夢の始まりだったのかもしれません、あとにして思えば・・・・。

お代わりを断った連れ合いにウェイターは昼食のオーダーを取ろうとしましたが
「いや、今日は外出するんでいらないよ」
「余所で召し上がるんですか?」
「インド料理が食べたいんだそうで、セーファーまで行くんだ」
「じゃぁ、また夕方に飲みに来てください」
そんな声に送られながら出かけていきました。
インド料理は美味しくって大満足。好物のクルフィも食べて言うこと無し。今日の晩御飯はなんにもいらないわ!など話しながらホテルまで戻ってきたと思ってください。

小さいながらそこそこセキュリティも行き届いたこのホテルは、吹き抜け風になった廊下に面して部屋があり、当然その廊下側にも窓があるので明るくて気に入っていたのです。居住階への入り口には警備員が必ずおり、廊下も巡回してくれていました。
階段を上がり、自分たちのフロアーについたとき、ドキッ! エレベーター・ホールからすぐ近くの私たちの部屋の窓のカーテンが、風に揺らいで、窓の外でユーラユラしているではないですか!!!
「窓、開いてるぅ」と叫ぶ私に、連れ合いは至って平静に
「閉めなかったの?でもここはセキュリティ良いから大丈夫」と答えるもので、何となく安心して部屋に入りました。
「美味しかったね。また連れてってね」などと脳天気に話していた私に、今度は連れ合いが叫びました。
「やられた!」
彼が、自分のリュックにかけていた鍵が壊されていたのです。
「エッちゃんの荷物も見て!」という声に慌ててワードローブをあけてみると、スーツケースもボストン・バッグも、どちらの鍵もかかっています。
「大丈夫、私の方は。貴方のだけがやられたんだわ、鍵が小さかったから」
電卓、電気シェーバーやら、アクセサリーが少々なくなっているということです。そのときふと、不吉な感じが胸をよぎりました。
さっき、鍵を確かめるのに出してみたボストン・バッグ、軽すぎなかった?
慌ててもう一度出してみるとやはり鍵はきちんとかかっています。でも、軽い。カメラとビデオ・カメラ、バッテリー・チャージャーまで入った重さとは思えない。押さえてみると、一杯であるはずのバッグがすっとへこむ。
「私もやられた」
ヘナヘナヘナとなりました。

連れ合いは慌てて部屋を飛び出し、マネジャーを呼んできました。
状況を話すと、彼は早速、部屋の掃除をした係を呼びました。
「鍵は閉めて出ましたか?」マネジャーが私たちに聞く。
「閉めましたよ、私が」
「窓やドアは閉まっていたか?」今度はメイドに聞く。
「ドアは閉まっていたけれど、窓は開いていました」
「掃除が終わったあと、鍵はどうした?」
「ドアは閉めて、窓はそのままにしました」
「そんな馬鹿な! もしもあなたが来たときに開いていたからって、掃除が終わったら閉めるべきでしょう?」
「だって、お客さんが理由があって開けているかもしれないから」
「このホテルではそんな風に教育しているんですか?」
思わずマネジャーに詰め寄ってしまいました。

結局彼女の言い分は、私たちが外出したあと、フロントで鍵をもらって私たちの部屋の掃除に来た。この階についたとき、すでに窓は開いていたので、私たちが自分たちの意志で開けたものと理解して、部屋の掃除にかかった。その段階でなにも変わった様子はなかった。掃除が終わったので、元通りドアだけ鍵をかけて、窓は放置して、鍵はフロントに返した。

「開いていたなら閉めなさいよ!」と思わず叫びそうになりましたが、連れ合いが私の手を握って落ち着くように合図するので、ともかく黙りました。
マネージャーはすぐにホテル内の家捜しをしましたが、そのときすでに、あのバーのウェイターは、帰宅してしまったあとでした。

早速警察に被害届をだしにいきましたが現場を見に警官が来たのは翌日、そして、メイドは連行されました。もっとも、次の日には釈放され、職場復帰してきました。


この件で仲良くなったマネジャーと出した結論は

バーで私たちがセーファーまで出かけるといったことで、ウェイターには私たちの外出時間のおよその見当がついた。そして、彼自身ルームサービスの振りをしてか、それともあのメイドを使ってか、どちらかの方法で物を盗んだ。多分もう一人ぐらいグルになったヤツがいて、そいつが盗品を運び出した。でも、だれ???
結局、この推理は正しいのだろうが証拠がないのが残念でした。

私はもうこの部屋はイヤと、この階の隅にある、廊下側の窓のない部屋に移りました。翌々日、またホテルのバーへ行った私たちは、例のウェイターが辞めたことを聞きました。
そして、昼食に出る支度のために部屋に戻ろうとした私たちが見た物は・・・。
一心に新しい服のデザインを選んでいる、あのメイドでした。

ねぇ、その服のお金、どこからでたの?


南京錠

私のバッグの鍵が壊されてもいないのに中身が盗まれていたことを、不思議とお思いでしょう?

このバッグには南京錠というのを付けていたのですが、バッグの口はU字型で、両方向に開けられるようにジッパーが二つ付いていたのです。
だから、コーナーに鍵を持ってきて、そのままジッパーを引けば、カメラが出せるぐらいは十分に口が開いてしまうということを、事件のあと実験して知りました。

不覚でした!